2010年10月26日火曜日

改めて、吉田都さんに感動

NHK の「プロフェッショナル 仕事の流儀」に、元英国ロイヤルバレエのプリンシパルである吉田都さんが 2 度目の登場。

今回は「元」がついてしまうように、15 年以上もトップダンサーとして活躍したバレエ団の最後の公演までの 3 ヶ月間を追ったドキュメンタリーだ。

ロンドンでの最後の演目の「シンデレラ」や日本公演の「ロミオとジュリエット」の様子も映し出される。ロンドン、そして何度通ったか分からないロイヤルオペラ劇場も。

通常、舞台中継をテレビで観てもいまいちだけど、彼女の演技、とりわけ私も生で観た「ロミオとジュリエット」の演技力はテレビの前にいても胸が苦しくなり、目頭が熱くなる。

たまたま見かけた「スーパーバレエレッスン」で講師役の彼女が、生徒を指導するふとした動きもそうだったけど、ともかく彼女は演技力・表現力が豊か。きっとそれは心も体も柔軟だからなしえているのだろう。心も体もやわらかくするって本当に大切だ。演劇をしていた時に何度も聞いたけど、柔軟性があるからこそ、相手の演技を受けることも、そして返すこともできて表現が豊かになる。

それは何も演技だけの話ではない。充分、日常生活でもあてはまる。心がやわらかさを失い、硬直してしまったら、世界から遮断され、生きる道を見失ってしまう。

以前、この番組でも垣間みられた彼女の毎日の生活は、優雅で美しい舞台からはかけ離れた、壮絶で苦しい闘いの日々。

体の故障に悩まされる肉体的な闘い、
東洋人としての外見のコンプレックスに苦しむ内面の闘い、
他のダンサーに追い越されないようにというプレッシャーとの闘い、
自分の踊りや演技との闘い……。

でも彼女は踊り切った。
比較されることの多い、同じバレエ団の花形ダンサーであるバッセルやギエムが去った後も、彼女は踊り続けて、自分の踊りの美を追求した。ともかく懸命に、がむしゃらに。

楽屋でトゥシューズの中敷を外し、滑りすぎないようにソールを削ったり刻んだりする。前の回では、足になじませるために新しいトゥシューズのつま先を床やへりに叩き付けていた。そんな様は、アーティストというよりも職人のよう。

ひたむきな情熱が彼女の踊りを支えてきたと言ってもいい。
だから外見に関するコンプレックスも飛躍するためのバネに変えることができたのだ。

自分が劇団にいた頃の外見に関するコンプレックス、
留学していた頃の語学力に関するコンプレックス、
そして海外生活での差別……

自分にも同じようなことがあったなと、今ではちょっぴりほろ苦い思い出が記憶をかすめる。

情熱が彼女の何にも勝る原動力だったからこそ、番組の中でも何度か漏らしていたように、「なんだか安心してしまっている自分」になってしまっては、今までと同様、貪欲に踊り続けることは難しいといち早く察したのだろう。

自分の頂点で退く、そうした選択肢を得た彼女は勇敢であり、潔く、そしてそれを選ぶことができたのはとてもラッキーなことだった。同じようにダンサーとしてのキャリアの絶頂で引退したダウシー・バッセルと同様に、それだけ自分の踊りへのこだわり、美への強い執着があったのだろう。それがまたカッコいいのだ。

人間は本当に上手くできていると思う時がある。
年齢を重ね、体力が落ちて弱くなっていくとともに、これ以上望まないようにと心も安定していき、あまり冒険をおかそうとは思わなくなっていく。無理に頑張りすぎるのもどうかと思うが、吉田さんの場合、心の持ち方でこうも見事な去り際を飾ることができるものかと、ただひとしきり感心するばかり。

120 %の準備が自分を支える」という彼女のことば、

そして、プロフェッショナルとはと訊ねられて彼女が答えた

情熱と誇りを持って、ひとつのことをコツコツとやっていける人…

その両方が私の心の琴線に触れた。

私もまだまだだな、もっともっとできることがある。
今からでもまだ間に合う。

参照:NHK「世界のプリマ 最後の闘いの日々 バレリーナ・吉田都」

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